この記事の対象と結論

のれん代の償却は、主に買い手が取得した価値を費用にしていく処理です。売り手が譲渡代金を分割して受け取ることや、会社の借入を返済することとは異なります。

借入の連帯保証が残り、会社の譲渡を考えているなら、買い手の償却だけで判断しないでください。確認するのは、譲渡の形、代金の受取人、税金を引いた手取り、保証解除の条件です。会計上の償却と、税金の計算で認められる費用は分けて考えます。

「償却負担が重いので値下げしたい」と言われても、その説明だけで応じる必要はありません。どの帳簿に生じる負担なのかを確かめる余地があります。資料がそろっていない段階でも、相談の入口は作れます。

のれん代の償却は、買収代金を費用に配分する処理

のれん代を償却すると、買い手の会計上の利益に影響します。ただし、償却費を計上するたびに、同額の現金を売り手へ支払うわけではありません。

のれん代は、引き継ぐ事業の価値のうち個別に分けきれない部分

買い手は、設備や在庫だけを見て事業を買うとは限りません。取引の継続や、従業員が支える仕事の流れにも価値を見いだします。営業を引き継いだ後に、収益を得られると考えるためです。

取得の会計処理では、支払った対価を取得した資産や負債に割り当てます。そのうえで残る差額が、のれんとして扱われることがあります。譲渡価格のうち、設備代を超えた部分がすべてのれんになる、という計算ではありません。

たとえば、帳簿に載っていない権利を個別に評価する場合があります。売掛金の回収可能性や、引き継ぐ負債も確認対象です。まず譲渡対象を確定させる必要があります。

また、売り手が長く育てた信用を、自分の判断で資産に計上する話とも別です。価格交渉で説明する事業価値と、買い手が取得後に計上するのれんは、同じ数字になるとは限りません。

償却費は利益に響くが、毎回の支払いとは連動しない

取得時に資産として計上した金額を、その後の期間に配分して費用にする処理が償却です。日本の会計処理では、のれんの効果が及ぶ期間を見積もり、規則的に償却する考え方が基本になります。

買収代金の支払いは、契約で定めた時期におこないます。一方、償却費は取得後の決算に計上されます。現金の動きと費用の計上には、時間のずれがあるのです。

買い手が気にする負担も分けて読んでください。

  • 買収時に用意する資金
  • 取得後の決算に載る償却費
  • 事業を続けるための運転資金
  • 買収資金の借入に伴う返済

償却費が小さくても、買収資金が足りなければ実行は難しくなります。反対に、資金を用意できても、決算への影響を理由に条件を見直す場合があります。

償却期間は、売り手の希望だけでは決められない

償却期間を長くすると、同じ取得額でも各期の費用は小さくなります。ただし、価格を通すためだけに期間を延ばす考え方には無理があります。適用する会計のルールと、効果が続く期間の裏付けが必要です。

価格の根拠と、期間の根拠は分けます。売上や粗利益の実績は、主に事業価値を説明する材料です。それだけで、取得後の効果がいつまで続くかを決めることはできません。

期間の検討には、収益を生む仕組みが続く見通しを添えます。売り手が用意できる資料は、次のような内容です。

  • 主要契約の残存期間と更新条件
  • 顧客との取引継続や離脱の推移
  • 人員の定着と引き継ぎの計画
  • 権利の利用期限と更新の条件

契約の残存期間が、そのままのれんの償却期間になるわけでもありません。更新の見込みや、契約以外の収益源も関わるためです。買い手側が資料をもとに効果の続く期間を見積もり、会計上の判断をおこないます。

予定どおりの償却と、価値の低下による損失は別

予定した期間に沿う償却とは別に、取得後の収益見込みが悪化することがあります。資産として残っている金額を回収できない場合に、帳簿価額を引き下げる処理が減損です。

買い手は、毎期の償却費だけを見ているわけではありません。取引先の離脱や、引き継ぎの失敗による追加の損失も検討します。その不安が価格に反映される場合があります。

そこで売り手は、良い情報だけを並べず、収益が続く条件を示します。主要顧客の契約終了が近いなら、その事実も開示対象です。後から判明すると、価格の再検討や契約上の問題につながりかねません。

なお、買い手が減損を計上したことだけで、売り手の返金義務が決まるわけではありません。返金や補償の有無は契約条件によります。会計上の損失と、契約上の責任を混ぜないことが出発点です。

会計で償却できても、税金が同じだけ減るとは限らない

会計上の償却費と、税務上の損金は別のルールで判断します。買い手が説明する「節税効果」は、取引の形と計算の前提まで確認してください。

決算の利益と、税金を計算する所得は同じとは限らない

会計は、会社の財産や経営成績を示すための処理です。税務では、その決算を出発点に調整を加え、課税の対象となる所得を計算します。

会計で費用になった金額でも、税金の計算で同じ時期に差し引けるとは限りません。逆に、税務上の計算が会計と異なる期間にわたる場合もあります。のれんについても、この区別が必要です。

買い手から償却の試算を受け取ったら、表の見出しを見てください。「利益への影響」と「税負担への影響」が混ざっていないかを確かめます。区別がなければ、分けた説明を求める余地があります。

売り手が税額を計算し直す必要はありません。何を前提に提示価格が決まったのかを把握するための確認です。計算条件が見えれば、どこまで価格に影響しているのかを話し合いやすくなります。

税務上の償却は、契約の名称だけでは決まらない

契約書に「のれん代」と書けば、その全額を予定どおり費用にできるとは限りません。取得した事業の実態や、引き継ぐ資産・負債の評価が関わります。

通常の株式譲渡では、買い手は株式の取得価額を毎期償却して損金にする扱いにはなりません。連結決算でのれんを償却していても、その費用だけを理由に税金が減るわけではないのです。

一方、一定の事業譲渡では、税務上ののれんに相当する差額が生じる場合があります。取得対価と、受け入れる資産・負債の時価純資産額との差額などを扱う「資産調整勘定」です。該当する場合は、税法に沿って期間配分し、損金に算入する処理を検討します。

会計上ののれんと資産調整勘定は、金額が一致するとは限りません。単独で取得する営業権とも区別が必要です。税務担当者には次の事項を確認します。

  • 資産調整勘定に該当する取引か
  • 対価と時価純資産額の計算根拠
  • 損金にする期間と開始時点
  • 会計上ののれんとの差額

期間だけを抜き出して比べると、別の処理を同じものとして扱いかねません。「何年か」を決める前に、何を取得した取引なのかを確定させる順序です。

償却費の額が、そのまま節税額になるわけではない

税金の計算で費用にできるとしても、その費用の全額が返ってくるわけではありません。税額が減る目安は、所得から差し引ける額に、適用される税率を掛けた金額です。

ただし、その期に課税される所得がなければ、当期の法人税が同じ計算で減るとは限りません。費用にできる額と、今期減る税金は別です。現金負担がすぐ軽くなるという説明なら、どの税額がいつ減る試算なのかを聞いてください。

「買い手には税務上の利点があるから、その分だけ高く買えるはず」と考えるのも早計です。買い手は、買収後の運転資金や引き継ぎ費用も負担します。税金の軽減見込みは、価格を検討する材料の一部です。

値下げの説明に使われた場合も同じです。償却の負担額と値下げ額がどう結び付くのかを確認します。税務上の利点と会計上の負担を、都合よく片方だけ取り上げていないかを見るためです。

売り手の納税は、買い手の償却と分けて準備する

買い手がのれんを償却しても、そのこと自体で売り手の税金は減りません。売り手側では、譲渡による利益への課税を確認します。双方の納税時期も連動しないため、入金後に残す納税資金を別に計算します。

事業譲渡なら、会社が受け取る対価と譲渡した資産の簿価などから、譲渡損益を整理します。株式譲渡では、株主側の取得費などを踏まえて計算する形です。会社と個人の税金は分けて扱います。

つまり、株式取得では税務上ののれん償却が通常生じず、事業取得では生じうるという違いがあります。その分岐は主に買い手側の話です。売り手は、自分が何を売り、いくらの利益が生じるかで納税を検討します。

消費税も、譲渡総額だけで判断しないでください。国税庁は非課税取引として「土地の譲渡及び貸付け」を挙げています。一般原則を事業譲渡に当てはめる際は、含まれる財産ごとの確認が必要です。

出典は、国税庁「非課税となる取引」です。価格配分と税込・税抜の区別が定まった段階で、売り手の納税見込みも更新します。

株式譲渡と事業譲渡では、のれんが現れる帳簿が違う

株式を買う場合と事業を買う場合では、買い手が取得するものが異なります。同じ事業の引き継ぎでも、のれんや税務の処理をそのまま置き換えることはできません。

株式譲渡では、買い手の個別決算と連結決算を区別する

株式譲渡で買い手が取得するのは、対象会社の株式です。買い手の個別決算では、その取得対価は基本的に株式の取得価額として扱われます。高く買った差額を、そのまま個別決算ののれんとして償却する説明は不適切です。

一方、対象会社を含めたグループ全体の決算を作る場合があります。この連結決算では、取得時の資産・負債の評価を経て、のれんが生じることがあります。

つまり、「株式譲渡にはのれんがない」とまとめるのも正確ではありません。どの決算の話かが分かれ目です。

個別決算にも、取得した株式の価値が低下するリスクは残ります。状況によっては、株式の評価損や減損処理が生じます。これは、のれんを毎期償却する処理とは別に確認する項目です。

買い手が償却を理由に条件を変えたいと言うなら、個別決算と連結決算のどちらへの影響かを確かめます。連結決算の費用が、そのまま買い手の税務上の損金になるとも限りません。

事業譲渡では、取得対象の配分が償却にも影響する

事業譲渡では、買い手が取得する財産や引き受ける債務を定めます。そのため、対価を何に配分するかが会計・税務の処理に関わります。

設備の価値を見直すのか、個別に評価できる権利があるのか。残る差額をどう扱うのか。譲渡対象と評価の根拠がつながっている必要があります。

株式譲渡との違いは、次のように整理できます。

→ 横にスクロールできます

確認項目 株式譲渡 事業譲渡
買うもの 対象会社の株式 対象となる事業
代金の受取人 株式を売る株主 事業を売る会社
会計の確認先 個別の株式・連結ののれん 個別の取得資産・のれん
通常の税務償却 株式取得額は償却しない 資産調整勘定等を確認
価値低下時の確認 株式評価損・のれん減損 取得資産・のれんの減損

表は通常の取引を整理したものです。株式の評価損も、会計で計上すれば税務上そのまま損金になるとは限りません。事業譲渡では、資産調整勘定の該当性と、その算定に使う対価・時価の明細を確認します。

償却の有利不利だけで方式を決めず、契約の引き継ぎや資金の行き先も合わせて比べます。

譲渡代金が入る先によって、借入返済の設計が変わる

経営者が保有する株式を売れば、代金は通常、その株主に入ります。会社の預金が同額増えるわけではありません。会社の借入を返す計画なら、その資金をどう用意するかは別の検討です。

事業譲渡では、事業を売った会社が対価を受け取ります。ただし、入金の全額を自由に使えると考えるのは危険です。納税や残る支払いを踏まえて、資金の使途を組み立てます。

借入と保証へのつながりは、次の順序で確認します。

1. 納税や残務費用を含む資金計画を作る
2. 合意した返済計画に沿う返済額を確認する
3. 返済後に残る会社の借入を計算する
4. 残債に対応する保証の扱いを確認する

これは検討の順序であり、債権者への支払順位を示すものではありません。返済先や返済額は、会社の状態と法的な制約も踏まえて検討します。特定の相手への返済を、独断で先行させないことです。

会社が返済すれば、対応する借入残高は減ります。しかし、借入が残る場合の経営者保証は別途の確認が必要です。事業を引き継いだ買い手に、残債や保証が自動で移るわけではありません。

受取人が違えば、経営者個人の生活資金の見通しも変わります。会社に入った代金を、理由なく個人の手取りとして扱うことはできません。

比較するときは、提示額の横に受取人を書いてください。さらに、納税見込みと残る債務を別欄に置きます。同じ譲渡価格でも、会社と経営者に残る資金は異なります。

償却の利点より、引き継げる範囲を先に確定する

買い手に税務上の利点が見込めても、必要な契約が引き継げなければ事業は続きません。設備だけ取得しても、使う場所や働く人が確保できない場合があります。

譲渡の形を比べる際は、次の事項を先に確かめます。

  • 主要な取引を継続できる条件
  • 従業員の引き継ぎに必要な手続き
  • 施設や設備を使い続ける権利
  • 必要な許認可の扱い

また、「事業譲渡なら債務をすべて切り離せる」とは限りません。商号を続けて使う場合など、買い手に責任が生じる法律上の扱いがあります。契約対象だけを見て判断しないようにします。

中小企業庁の「中小M&Aガイドライン」でも、手法ごとの作業やリスクが整理されています。税金の比較は、実行できる引き継ぎ案を土台におこなうものです。

買い手の償却負担を、譲渡価格と手取りの検討につなげる

買い手の償却負担は価格交渉の材料になりますが、売り手の最低条件を自動的に決めるものではありません。事業価値の根拠と、売却後に必要な資金をそれぞれ示します。

「償却が重い」という説明は、前提を聞いて受け止める

償却を理由に値下げを求められたら、何の負担を指すのかを確認します。買収代金の調達が難しいのか、利益が下がることを懸念しているのかで、検討すべき条件が違います。

説明を求める内容は、次のとおりです。

  • 想定しているのれんの金額
  • 会計上の償却期間と判断根拠
  • 税務上の費用処理の見込み
  • 価格の再検討に至った変更点

初めの提示時には織り込んでいた負担なのかも確認します。調査で新たな事情が分かったなら、その事情がどこに影響したのかを示してもらう形です。

売り手側の資料に誤りがあった場合と、買い手の社内判断が変わった場合を混ぜないでください。価格を受け入れるかどうかは、根拠を整理してから判断できます。

高い評価を求めるなら、譲渡後に続く利益を説明する

売上が続いていても、利益が残るとは限りません。買い手が評価するには、引き継ぎ後の費用も見込んだ収益の説明が必要です。

経営者が営業や現場管理を兼ねていたなら、退任後の代わりをどう確保するかが関わります。無償に近い家族の手伝いが支えていた仕事も、引き継ぎ後には人件費が変わる可能性があります。

逆に、一時的な費用で決算が悪化しているなら、継続する費用と分けて示す余地があります。ただし、希望的な改善を実績のように扱わないこと。裏付けとなる帳簿や契約を添えます。

詳しくは「のれん代を譲渡価格につなげる実務ガイド|算定の根拠から契約・税金・連帯保証まで」をご覧ください。償却の議論に入る前の、価格そのものの根拠を整理できます。

売り手の手取り表には、税金と残る支払いを載せる

譲渡価格が決まっても、それだけでは経営者の生活の見通しは立ちません。会社と個人を分けて、入金から何を支払う予定なのかを確認します。

手取りの検討表には、次の項目を用意します。

  • 譲渡代金の受取人と入金予定日
  • 譲渡に伴う税金と費用
  • 会社に残る借入や未払い
  • 引き継ぎ後も必要となる支出

借入元本の返済と、損益計算上の費用は性質が違います。「代金を返済に回したから、譲渡益への税金も生じない」と考えると、納税資金の見積もりがずれるおそれがあります。

また、事業を譲った後も会社を整理する作業が残る場合があります。残務の費用を除外すると、譲渡直後に資金不足が表面化しかねません。契約前の試算を、最終条件に合わせて更新します。

分割払いの提案は、償却期間と切り離して判断する

買い手が償却期間に合わせた分割払いを提案することがあります。しかし、会計上の費用配分と、代金の支払方法は別の問題です。売り手には、回収まで待てるかという判断が残ります。

資金繰りが厳しい会社では、総額が高くても入金が遅い条件を受け入れにくい場合があります。譲渡実行までの支払いと、実行後に残る支払いを賄えるかを見ます。

事業譲渡の代金を借入返済に充てる計画なら、分割入金では返済も遅れるおそれがあります。その間に残る借入と保証を、資金繰り表に反映してください。会計上の償却が進んでも、売り手の回収や返済が進むとは限りません。

確認対象は支払日だけではありません。

  • 各支払日に受け取る金額
  • 支払いが止まった場合の扱い
  • 将来業績による代金調整の条件
  • 回収を支える措置の内容

業績に応じて代金が増減する条件なら、計算の対象や確認方法も契約に落とし込みます。将来受け取れるか未定の金額を、直近の返済原資に組み込まないようにします。

譲渡条件を詰める手順は、対象確定から契約照合まで

のれん代の償却を巡る手戻りを減らすには、譲渡対象を固めてから価格配分と税務を確認します。譲渡検討中も資金繰り表を更新し、契約まで待てる期間を並行して見ます。

最初にそろえるのは、希望額より取引の全体像

最初から精密な評価書を作る必要はありません。会社を丸ごと譲る案なのか、事業を切り出す案なのかを整理するところから始めます。未定なら、未定と書いて構いません。

相談時には、分かる範囲で次の資料を用意します。

  • 直近の決算書と現在の試算表
  • 資産の内訳と帳簿価額
  • 借入残高と返済予定
  • 保証契約と担保の資料

資料が古い場合は、現在との違いをメモにします。直近で売掛金が回収できなくなった、設備が使えなくなった、といった変化を見落とさないためです。

書類をそろえる間にも支払日は来ます。譲渡の検討期限は、検索時に考えていた予定より短くなる場合があります。入金見込みと支払いを照合し、不足する時期が分かったら、その日付を相談時に伝えます。

価格配分表は、対象一覧と評価資料をつなげて作る

事業譲渡の価格配分は、合計額だけ合っていても不十分です。どの財産にいくらを割り当てたのかを、譲渡対象一覧と照合できる形にします。

整理の順序は、次のとおりです。

1. 譲渡する財産と負債を特定する
2. 各項目の簿価と評価根拠を確認する
3. 個別に評価する権利を検討する
4. 残る差額の会計・税務処理を確認する

配分の根拠には、資産の状態も関わります。動かない設備を通常の稼働設備と同じ条件で扱えば、調査の後に修正が必要になります。数量や所有者の確認も先に済ませます。

買い手と売り手で資料の版が違うと、合意したつもりでも数字がずれます。更新日と変更箇所が分かる形で管理してください。最終的な配分は、双方の会計・税務担当者が検討できる状態にします。

税務確認は、契約の条件が固まる前に挟む

税務確認を入金後まで延ばすと、税込・税抜の認識違いを直しにくくなります。価格の配分が変われば、売り手と買い手の税務処理にも影響するためです。

確認の担当を決めておくと、同じ質問が往復しにくくなります。会計上の扱い、税務申告、契約の効力では、それぞれ確認する内容が異なります。

  • 会計担当者は計上額と償却を確認する
  • 税理士は税額と申告の扱いを確認する
  • 弁護士は契約条件と法的責任を確認する
  • 経営者は資金と引き継ぎ条件を判断する

個別の依頼範囲は契約により異なります。誰が最終確認を担当するのかまで明らかにしてください。仲介者の価格説明だけで、税務上の処理まで確定したとは扱わない方が安全です。

最終契約では、価格・入金・引き継ぎの条件を照合する

最終契約に進む段階では、価格の合意と実行条件が食い違っていないかを確認します。のれんの説明資料があっても、契約の譲渡対象が違えば、そのまま処理できるとは限りません。

照合する書類は、次のとおりです。

  • 最終的な譲渡対象一覧
  • 合意した価格配分の資料
  • 支払日と支払条件の記載
  • 引き継ぎ後の負担を定める条項

さらに、実行直前まで変わる在庫や売掛金の扱いも整理します。価格調整をするなら、その計算日や確認方法を曖昧にしないこと。調整が売り手の手取りへ及ぼす影響も試算します。

事業譲渡では、入金口座と返済に回す資金の動きを照合します。代金の一部が留保されるなら、入金総額と当日使える金額を分けます。返済額が減る場合は、残債と保証解除の条件も再確認が必要です。

株式譲渡では、株主への代金支払いと会社の借入返済を別項目で扱います。契約上の入金予定だけを見て、会社の返済原資が用意できたと判断しないでください。

事業譲渡では、会社法上の承認なども確認対象です。会計処理が決まったことと、会社として譲渡を実行できることは別。署名から入金までに必要な作業を、担当者と一緒に一覧にします。

借入と連帯保証は、のれんの償却とは別の条件として詰める

のれん代を償却しても、売り手の借入や経営者保証が減るわけではありません。譲渡価格がまとまった段階でも、債務と保証の確認は続ける必要があります。

借入残高を、そのままのれん代に置き換えることはできない

「借入を返すために、この金額で売りたい」という希望は自然です。ただし、借入残高と買い手が評価する事業価値は、別の計算になります。

設備投資の借入が多く残っていても、その設備が十分な収益を生んでいるとは限りません。反対に、帳簿上の資産が少なくても、引き継げる取引が評価される場合があります。

そのため、返済に必要な額から逆算して、足りない部分をのれんと呼ぶだけでは説明が不足します。事業価値の算定と、返済不足の検討を並べて進めます。

譲渡価格で債務を賄えない場合は、譲渡後の会社の扱いまで検討が必要です。状況によっては、法的整理が適切な場合もあります。価格を上げることだけを前提にすると、選択肢を見失いかねません。

売買契約に保証解除を書いても、金融機関の同意は別

買い手が保証解除に向けた義務を負うと契約に定めることと、金融機関が保証を解除することは異なります。M&A当事者間の合意だけでは、金融機関との保証契約は消えません。

民法446条は「主たる債務者がその債務を履行しないとき」の保証人の責任を定めています。会社の返済が滞った場合、経営者個人への請求が問題になる根拠です。

さらに、民法454条により、連帯保証人には催告の抗弁と検索の抗弁がありません。前者は会社に先に請求するよう求める権利です。後者は一定の証明をして、会社の財産への執行を先に求める権利を指します。

そのため、返済が滞れば、会社への請求や財産の処分を経ずに連帯保証人へ請求が来る場合があります。「会社の資産を処分し終わるまで自分への請求はない」とは考えないでください。

出典は、e-Gov法令検索「民法」446条・452条〜454条です。会社を売る契約と、借入を保証する契約の相手方が異なることを意識してください。

最終契約では、保証解除に関する買い手の義務を確認します。そのうえで、金融機関の判断と必要書類を別に把握します。実行日だけを見て、すべての手続きが終わったと考えないようにします。

保証ごとの進捗表で、未確認の契約を残さない

保証の扱いは、借入先ごとに確認します。代表者の変更や株式の譲渡だけで完了とせず、どの契約について何が確認できたのかを記録します。

進捗表に載せる事項は、次のとおりです。

  • 対象となる借入と保証契約
  • 解除に向けて求められている条件
  • 条件を満たす担当者と予定
  • 完了を確認する書類

連帯保証以外に、個人所有の不動産が担保になっている場合もあります。保証の解除と担保の扱いは、それぞれ確認対象です。口頭の説明だけで安心せず、残る手続きが分かる状態にします。

詳しくは「廃業したら連帯保証はどうなる?残る理由と整理の道」をご覧ください。事業を終える判断と、経営者個人の保証責任を分けて整理できます。

当社は資料整備と条件設計を通じて、経営者の判断を支える

あさひ国際会計株式会社では、再生型M&Aの仲介をおこなっています。のれんの評価につながる事業資料を整理し、借入と保証の解除を見据えたスキームを提案します。

当社の役割は、資料整備とM&Aの条件設計による後方支援です。金融機関との協議は経営者ご本人が主体となり、必要に応じて依頼する弁護士等の専門家が担います。

初回の相談では、希望する譲渡価格が未定でも構いません。支払いが厳しくなる時期と、残したい事業を伝えてください。税務や法的な確認が必要な部分を分け、検討の順序を整えます。

相談は無料で、報酬は成功報酬のみです。成約時に譲渡代金の中から精算するため、売り手の手元からの持ち出しはありません。成功報酬まで無料という意味ではないため、契約前に算定方法と精算後の金額を確認いただきます。

よくある質問

のれん代の償却期間は、売り手と買い手で自由に決められますか?

会計・税務の処理に使う期間を、価格交渉だけで自由に決めることはできません。適用するルールと、取得した価値の内容に沿って判断します。売り手は契約の残存期間や更新条件など、効果が続く見通しの資料を示します。その資料も踏まえ、買い手側が会計上の期間を判断する流れです。税務上の期間や代金の支払期間とは分けて扱います。

株式譲渡なら、買い手はのれん代を償却できないのですか?

買い手の個別決算では、通常は株式の取得として扱い、取得額を毎期償却しません。ただし、株式の価値低下により評価損が生じる場合はあります。一方、連結決算ではのれんが生じ、会計上の償却の対象になる場合があります。その償却費が、そのまま税務上の損金になるわけではありません。個別決算、連結決算、税務のどれを指す説明かを確認してください。

赤字の会社でも、のれん代が付く可能性はありますか?

引き継ぎ後の収益を説明できれば、帳簿上の資産を超える評価につながる可能性があります。ただし、赤字の理由や改善に必要な支出まで検討する必要があります。取引が経営者個人に依存している場合は、退任後も続く条件を示します。赤字だから価値がないとも、売上があるから高く売れるとも判断できません。

のれん代を高く設定すれば、売り手の手取りも増えますか?

総額が変わらず配分だけを変える場合、売り手の入金額が増えるとは限りません。会計・税務の扱いが変わる可能性もあるため、配分には根拠が要ります。総額が上がった場合も、税金や費用、残る債務を差し引いて検討します。手取りを比べる際は、入金時期と保証解除の条件も同じ表に載せてください。

まとめ

買い手から受け取った条件書に、取引の形、償却の前提、代金の受取人を書き添えてください。借入と保証の資料を合わせて整理し、手取りと支払期限に無理がないかを相談の場で確かめましょう。

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この記事を書いた人

あさひ国際会計株式会社 代表取締役 金子広夢
東京都中央区日本橋兜町17番2号 兜町第6葉山ビル4階/中小企業庁 M&A支援機関登録制度 登録支援機関
連帯保証の解除を見据えた再生型M&Aを専門に、年間60件以上のM&A仲介の成約実績があります。
他社で断られた案件のご相談も承っています。ご相談は無料です。

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最終更新日: 2026年9月30日