この記事の対象と結論

この記事は、資金繰りが厳しく、30日以内に廃業の方向を決めたい経営者を対象にしています。従業員の生活を考えるほど、罪悪感や焦りが強くなる場面です。

会社をたたむ場合、従業員との雇用関係、給与、退職に伴う書類を整理する必要があります。ただし、廃業を決めた時点で、すぐ全員に退職を求めるのは慎重に考えるべきです。

先に確認したいのは、給与をいつまで払えるか、事業を引き継ぐ余地があるか、法的整理が必要かの3点です。事業譲渡や株式譲渡が成立すれば、事業と雇用を残せる可能性もあります。

従業員への責任に向き合うとは、会社を長く続けることだけではありません。残された時間と資金を把握し、説明と手続きを混乱させない道筋をつくることも責任の取り方です。

会社をたたむと従業員に何が起きるのか

会社の出口で変わる
従業員への影響

廃業すると雇用関係の整理が必要になる

会社を株主総会の決議で解散すると、清算へ進みます。会社法471条は株主総会の決議を解散事由の一つとし、同法475条は解散後の清算を定めています。

事業を終えて法人を清算するなら、従業員が同じ会社で働き続ける前提は失われます。そのため、雇用契約をどの時点で、どのように終えるかを整理しなければなりません。

経営者が最初に確認したい事項は次のとおりです。

  • 従業員ごとの雇用契約
  • 就業規則と給与規程
  • 給与と退職手当の支払状況
  • 有給休暇などの管理記録
  • 社会保険に関する書類
  • 貸与品と会社データの所在

「会社を閉じるから退職になる」と一括りにせず、一人ずつ契約と未精算額を確かめます。解雇予告手当などの取扱いも含め、社会保険労務士や弁護士へ個別に確認するのが安全です。

自主廃業と破産では進め方が異なる

債務を支払い、通常の清算を進められる会社と、支払不能にある会社では選択肢が異なります。

破産法2条は、支払不能を、弁済期にある債務を一般的かつ継続的に弁済できない状態と定義しています。破産手続は、裁判所が関与する法的な手続です。

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会社の状態 主な進め方 従業員への影響
債務を払える 解散・清算 雇用を終了
支払不能の懸念 法的整理を検討 未払い確認
事業価値がある M&Aを検討 雇用承継の余地
一部を残せる 事業譲渡を検討 対象者を確認

自主廃業なら、会社が主体となって退職や支払いを進めます。一方、破産手続へ進む場合は、申立てを依頼する弁護士や、開始後の破産管財人との連携が必要です。

状況によっては法的整理が適切な場合もあります。自主廃業を望んでいても、資金と債務の状態によって進め方は変わります。

株式譲渡なら会社はそのまま残る

株式譲渡では、株主が変わっても法人格は変わりません。中小企業庁「中小M&Aガイドライン第3版」も、会社の借入金などの債務は、そのまま会社に残ると説明しています。

雇用契約の当事者である会社が存続するため、従業員の雇用を維持しやすい形です。ただし、買い手が組織や労働条件をどのように考えるかは、事前に確認する必要があります。

また、経営者保証が自動的に外れるわけではありません。保証の解除や移行は金融機関等の判断によります。M&Aの当事者間だけで決められるものではない点に注意が要ります。

事業譲渡では引き継ぐ範囲を決める

事業譲渡では、譲渡する事業や財産を選べます。会社全体の承継が難しくても、採算の見込める事業、取引関係、設備などを切り出せる余地があります。

従業員についても、誰がどの条件で新しい会社へ移るのかを個別に整理します。現在の会社との雇用関係と、譲受会社での雇用を混同しないことが大切です。

会社法467条では、事業の全部または重要な一部の譲渡に、株主総会の承認が必要とされています。「重要な一部」の目安は、譲渡資産の帳簿価額が総資産額の5分の1を超える場合です。

会社をたたむ案と譲る案の見分け方は、M&Aと廃業の分岐点|会社・従業員・連帯保証を守る実務ロードマップもご覧ください。

最初の一週間で整理すること

資金が尽きる前に動く
最初の確認手順

給与をいつまで払えるか計算する

従業員への説明より先に、手元資金と支払予定を確認します。感情だけで閉鎖日を決めると、最後の給与まで不足するおそれがあるためです。

まず、次の資料を同じ基準日にそろえます。

1. 預金残高を口座別に確認する
2. 入金予定を回収可能性別に分ける
3. 給与と退職手当を従業員別に集計する
4. 税金や借入返済などの支出を並べる
5. 事業継続に必要な固定費を確認する

売掛金は帳簿上の金額ではなく、実際の入金時期で見ます。返品や相殺の可能性も分けてください。

この段階で資金不足が見えたら、一部の債権者だけに場当たり的な支払いをする前に、弁護士へ法的な扱いを確認します。会社のお金を経営者個人へ移すような行動も避けるべきです。

従業員別の未精算額を一覧にする

未払い賃金は、全従業員の合計だけでは足りません。一人ずつ、支払期日と金額を分けて記録します。

一覧には、少なくとも次の項目を設けます。

  • 氏名と雇用形態
  • 給与の締日と支払日
  • 未払い給与の金額
  • 退職手当の有無
  • 解雇予告手当の確認状況
  • 会社からの貸与品
  • 本人へ渡す書類

タイムカード、給与台帳、雇用契約書などの原資料も保全します。後から数字を復元しようとすると、従業員側の記録と食い違うことがあります。

給与計算の誤りが疑われる場合は、社会保険労務士へ確認します。法的整理を予定しているなら、担当する弁護士とも情報を共有します。

廃業日を先に断言しない

経営者が「月末で閉める」と口にすると、従業員や取引先はその日程を前提に動き始めます。しかし、資金計算やM&Aの検討前では、日程を変えざるを得ないことがあります。

社内へ話す前に、次の分岐を確認してください。

  • 通常清算に必要な資金があるか
  • 給与を予定どおり払えるか
  • 法的整理の可能性があるか
  • 事業に引継ぎ価値があるか
  • 買い手候補を探す時間があるか

情報を伏せ続けるのも望ましくありません。ただし、不確かな日程を断言することと、現状を誠実に説明することは別です。

「現在、事業継続と廃業の両面を検討している」と伝える段階もあります。伝える内容と時期は、専門家と相談しながら決めます。

記録とデータを保全する

会社を閉じる局面では、担当者の退職や端末返却によって情報が失われやすくなります。人事、給与、会計、契約に関するデータを保全してください。

対象となる主な記録は次のとおりです。

  • 雇用契約書と就業規則
  • 給与台帳と勤怠記録
  • 決算書と直近の試算表
  • 借入と連帯保証の契約書
  • 取引先との契約書
  • 許認可に関する資料

ただし、従業員の個人情報を無関係な相手へ渡してはいけません。買い手候補へ開示する場合も、必要性と開示範囲を検討します。

従業員への説明と退職実務の進め方

説明前に経営者側の方針をそろえる

株主、役員、経理担当者の認識が異なると、従業員への説明が混乱します。説明日を決める前に、経営者側で事実関係を統一します。

少なくとも、次の質問に答えられる状態を目指します。

1. なぜ事業継続が難しいのか
2. 給与はどこまで支払えるのか
3. 今後の予定はどこまで決まっているか
4. M&Aや事業譲渡を検討しているか
5. 個別相談の窓口を誰が担うか

未確定事項を無理に答える必要はありません。「確認中」「決定後に書面で伝える」と区別したほうが、誤解を抑えられます。

全体説明と個別説明を分ける

全体説明では、会社の状況と共通の日程を伝えます。給与額、退職手当、再就職の事情などは個別に扱います。

説明内容は口頭だけで終わらせず、書面でも渡します。日付、問い合わせ先、次回の案内時期を記載すると、従業員が行動を決めやすくなります。

一方的に読み上げるだけでは、不安や怒りが強くなることがあります。質問を受ける時間を設け、分からない事項は確認後に回答してください。

経営者自身もつらい局面ですが、従業員は家賃、住宅ローン、家族の生活を抱えています。感情的な反応があっても、まず事実と手続きに沿って受け止める姿勢が求められます。

説明内容を人によって変えない

管理職だけに詳しい情報を伝え、ほかの従業員には異なる説明をすると、社内で不信感が広がります。個別事情を除き、共通情報はそろえます。

また、退職届を急いで書かせるような進め方は避けます。会社都合の終了なのか、従業員本人の意思による退職なのかで扱いが変わりうるためです。

退職理由や解雇に関する書面は、会社だけで判断せず、社会保険労務士や弁護士に確認してもらう方法があります。経営者の言葉が、後の手続きと食い違わないようにするためです。

退職後に必要な書類まで予定する

最終出勤日を決めるだけでは、退職実務は終わりません。従業員が次の仕事や生活保障に進めるよう、必要書類を準備します。

社内では次の担当を決めておきます。

  • 給与計算の担当者
  • 退職書類の作成担当者
  • 貸与品の回収担当者
  • 問い合わせへの回答者
  • データを保管する責任者

会社の担当者も退職するため、処理できる人が最後まで残るとは限りません。外部の社会保険労務士や弁護士へ依頼する業務も、早めに切り分けます。

給与を払えない場合の未払賃金への対応

未払賃金立替払制度で全額が補われるわけではない

会社が倒産し、賃金を払えない場合には、未払賃金立替払制度の対象となることがあります。制度を実施するのは労働者健康安全機構です。

立替払額は、対象となる未払賃金総額の100分の80です。ただし、退職時の年齢ごとに上限があります。

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退職時の年齢 未払賃金の上限 立替払の上限
45歳以上 370万円 296万円
30歳以上45歳未満 220万円 176万円
30歳未満 110万円 88万円

未払賃金の全額を会社に代わって支払う制度ではありません。上限を超える部分や、対象外の金銭は立替払に含まれません。

詳しい制度内容は、労働者健康安全機構「未払賃金の立替払制度の概要」で確認できます。

対象となる会社と従業員には条件がある

対象となる事業主は、労災保険の適用事業で、1年以上事業活動をしていた事業主です。同居親族だけを使用する事業などは、取扱いが異なります。

従業員の退職時期にも条件があります。破産手続開始などの申立日、または事実上の倒産の認定申請日の6か月前の日から2年の間に退職した人が対象です。

退職後6か月以内に申立てや認定申請がされなければ、対象外となります。さらに、破産手続開始の決定などの日の翌日から2年以内に請求する必要があります。

「後で制度を使えばよい」と考えて申立てや記録整理を遅らせると、従業員が条件から外れるおそれがあります。会社側でも退職日、支払期日、未払い額を正確に残してください。

対象になる賃金とならない金銭を分ける

立替払の対象は、一定期間内に支払期日が来ている定期賃金と退職手当です。賞与は含まれません。

次の金銭も対象外です。

  • 解雇予告手当
  • 賃金の延滞利息
  • 年末調整の税金の還付金
  • 慰労金や祝金
  • 旅費や用品代などの実費

未払賃金の総額が2万円未満の場合も対象外です。給与明細の総額だけを見るのではなく、制度の対象項目に分ける必要があります。

会社が従業員へ説明するときも、「未払い分の8割が受け取れる」と単純化しないでください。年齢別上限や対象外項目があるためです。

倒産の種類で申請の流れが変わる

法律上の倒産では、破産管財人などが未払賃金額を記載した証明書を交付します。従業員は必要書類を整え、労働者健康安全機構へ請求します。

事実上の倒産では、労働基準監督署長への認定申請と、その後の確認申請が必要です。認定基準は個別の状態により確認が要ります。

経営者ができる準備は、制度の利用を約束することではありません。給与台帳、勤怠記録、退職日、支払い実績を保全し、証明に必要な情報を残すことです。

給与を払えない可能性がある段階での確認事項は、会社倒産したらどうなる|社長・従業員・借入・連帯保証に起きる変化もご覧ください。

廃業だけでなく事業と雇用を譲る選択肢

赤字や債務超過でも事業価値は残りうる

会社全体の純資産がマイナスでも、事業そのものに価値が残っている場合があります。継続取引、従業員の技術、許認可、設備、営業地域などです。

当社が支援した案件には、運送業で売上1億円台、債務超過3,000万円規模、従業員10名前後の会社もありました。財務概要が残る9件では、およそ3分の2が債務超過でした。

ただし、どの会社にも買い手がつくという意味ではありません。事業の収益性、引継ぎ条件、時間、買い手の信用力などで結果は変わります。

廃業費用を残すために早く営業を止めるべき会社もあります。反対に、営業を止めると事業価値が急速に失われる会社もあります。この見極めを先送りしないことが大切です。

従業員は買い手が見る事業価値にもなる

従業員を負債のように考えてしまう経営者もいます。しかし、採用や育成が難しい業種では、経験のある人材が事業価値になることがあります。

買い手が確認する事項には、次のようなものがあります。

  • 従業員の人数と役割
  • 資格や技術の保有状況
  • 勤続状況と年齢構成
  • 給与や勤務条件
  • キーパーソンの継続意向
  • 未払い賃金などの労務問題

従業員へM&Aを伝える時期は慎重な設計が要ります。早すぎる開示で退職が相次ぐ場合もあれば、直前まで伝えないことで信頼を損なう場合もあるためです。

買い手候補への情報開示と従業員への説明は、同じタイミングではありません。案件ごとに順序を組み立てます。

連帯保証は別の契約として扱う

会社を譲れば、経営者の連帯保証も消えると考えるのは危険です。民法454条により、連帯保証人には催告の抗弁と検索の抗弁がありません。

つまり、会社へ先に請求するよう求めたり、会社財産へ先に執行するよう求めたりする権利を持たない形です。

M&Aでも、保証の解除や移行は金融機関等の判断が前提です。中小M&Aガイドライン第3版も、正式な解除や移行は、クロージング後におこなう必要があると説明しています。

当社では、これまで成約に至った案件について、いずれも連帯保証の解除まで見届けています。ただし、金融機関の同意が前提です。すべての会社で同じ結果になると言い切れるほど単純ではありません。

会社をたたむ場合の借入と保証については、会社をたたむと借金は残る?連帯保証の有無で変わる結論をご覧ください。

30日以内に判断するための資料をそろえる

短期間でM&Aの可能性を判断するには、会社の説明資料を一から作り込むより、事実確認に必要な資料を先に集めます。

優先順位は次のとおりです。

1. 直近の決算書をそろえる
2. 最新の試算表を出す
3. 資金繰りと支払予定を整理する
4. 借入と保証契約を確認する
5. 従業員と給与の一覧を作る
6. 主要取引と許認可をまとめる

あさひ国際会計株式会社は、再生型M&Aを専門としています。金融機関との協議に必要な資料の整備、事業価値の説明資料の作成、M&Aの条件設計を通じて、経営者ご本人の協議を支えます。

報酬は成功報酬のみで、着手金はありません。成約時に譲渡代金から精算するため、売り手の手元からの持ち出しは0円です。

相談から最短5日でクロージングした実績があります。赤字・債務超過案件は、おおむね2〜4週間で進む例があり、相談した月のうちに成約することが多くあります。個別案件の期間は、資料の状態や買い手の判断などで変わります。

よくある質問

廃業を決めたら、すぐ従業員へ伝えるべきですか

伝える時期は、資金状況と手続きの見通しを確認してから決めます。説明を遅らせすぎると従業員の準備期間を奪いますが、不確かな閉鎖日を断言するのも混乱の原因です。給与をいつまで払えるか、法的整理やM&Aの可能性があるかを整理し、共通説明と個別説明を分けて進めます。

未払い給与は立替払制度で全額受け取れますか

全額ではありません。対象となる未払賃金総額の100分の80で、退職時の年齢に応じた上限があります。賞与、解雇予告手当、延滞利息などは対象外です。会社と従業員の双方に条件があり、退職や請求の時期にも期限があるため、早めに記録を整える必要があります。

債務超過でも従業員を引き継いでもらえますか

事業譲渡や株式譲渡によって、雇用を残せる可能性はあります。債務超過だけで可否が決まるわけではありません。取引関係、従業員の技術、許認可なども事業価値になります。ただし、買い手の有無や雇用条件は個別に検討され、法的整理が適切な場合もあります。

従業員に知られずM&Aを進められますか

初期検討を限定した関係者で進めることはあります。ただし、従業員の雇用条件や継続意向を確認せず、引継ぎを完了できるとは限りません。情報漏えいを防ぎながら、どの段階で誰に説明するかを案件ごとに設計します。秘密にし続けること自体を目的にしない姿勢が必要です。

まとめ

会社をたたむと、従業員の雇用、給与、退職書類を整理する必要があります。経営者が最初におこなうのは、閉鎖日の宣言ではありません。

まず、次の順序で現状を整理します。

1. 給与をいつまで払えるか確認する
2. 従業員別の未精算額を集計する
3. 自主廃業と法的整理を比べる
4. 事業と雇用を譲れるか調べる
5. 説明内容と時期を決める

給与を払えない可能性があれば、未払賃金立替払制度も確認します。ただし、立替払は全額ではなく、対象項目、年齢別上限、退職時期などの条件があります。

従業員への罪悪感から、判断を先送りしたくなるかもしれません。しかし、資金がなくなってからでは、守れる選択肢が減ります。逃げずに向き合う第一歩は、会社、従業員、連帯保証の状態を同時に整理することです。

あさひ国際会計株式会社では、平日の営業時間内のご連絡に最短当日で対応しています。相談時点で廃業とM&Aのどちらかに決めておく必要はありません。資料がそろっていない段階でも、現状から確認できます。

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この記事を書いた人

あさひ国際会計株式会社 代表取締役 金子広夢
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連帯保証の解除を見据えた再生型M&Aを専門に、年間60件以上のM&A仲介の成約実績があります。
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最終更新日: 2026年8月30日